


自然環境とも連動するデジタルツイン
巨大な商業ビルの立ち並ぶエリアで複数の飲食店を経営していたA氏は、オフィスビルの中に新たな店舗をオープンさせたばかりだ。街づくりDTC®をいち早く活用したことで話題となったA氏のレストランは、一風変わった仕組みを取り入れていることで知られている。あたかもひとつの場所に複数のレストランが入っているかのような空間をA氏はつくったのだ。もちろんオフィスビル内の新店舗にもこの仕組みが取り入れられているのだという。
ある日、A氏はランチ営業を行なっている新店舗に赴き、届いた食材のチェックを行なっていた。高騰気味の野菜の代わりになりそうな珍しい地元野菜がおまけで入っていたため、A氏はそれを吟味してつぎの仕入れへと加える。いまでは天気や気温の変化や生産者の状況も街づくりDTC®上で連携しているため、臨機応変に仕入れを調整していくことが容易になっていた。
レストランは一人ひとりに寄り添う
オープン時間を迎えると、つぎつぎとワーカーたちが入ってくる。このビルには大きな企業のオフィスビルだけではなくコワーキングスペースやインキュベーション施設も入っていたため、その分客層も幅広い。A氏は商業ビルの店舗で主にカップル向けのメニューを提供していたが、ここではさまざまな人々の趣味嗜好に合わせたメニューを提供する必要があった。
店に入った人々は、まず入り口近くのホログラム看板をチェックする。ボリュームのある肉や揚げ物を好みそうな客層とヘルシーな食事を好みそうな客層、人によって好みは異なっているが、店員がタブレットの指示どおりに席に通していくと、自然と店の奥と手前で客層は分かれ、奥の席には肉料理を中心としたメニューが、入り口側の席には野菜料理が自然とサーブされていった。店内の席が埋まっていくにつれ、まるでひとつの空間でふたつのレストランが営業しているような状態が生まれてゆく。
そう、じつはホログラムで表示されるメニューは人によって異なっていたのだった。A氏はレストランのデジタルツインをオフィスビルのデジタルツインと連携させ、ワーカーの趣味嗜好といった属性データとその時の健康状態や前後の予定を配慮したダイナミックメニューを構築していたのである。幅広い好みに対応すべく個々人にあったメニューを表示させながらも、A氏はいまベジタリアン向けのメニューに力を入れていたこともあり、親和性が高そうな客層には積極的に野菜を中心としたメニューを提示していたようだ。
この日のランチは盛況だったが、慣れないオフィスエリアでの営業とあって、食材をきれいに使い切れないこともままあった。そこでA氏は街づくりDTC®を通じてほかの店舗とも食材を連携させていたのであった。


店舗がつながりフードロスを実現
夜になるとA氏は自身が経営する別のレストランへと足を運ぶ。食品ロスゼロを売りにするその店には、オフィスビルの新店舗をはじめ、ランチ営業を行なっている他の店舗で余った食材が集約されるようになっていた。テーブルにはホログラムが内蔵されており、質問や料理に応じて、食材の生産地や配送経路、調理法などが表示されている。
このテーブルは提携の店舗を訪れたことがある客の好みや価値観を学習しており、食の安心と健康に関する総合案内役のような役割も担っている。それを切り口に店員は客とのコミュニケーションを盛り上げていく。コンセプト通り、レストランはほとんど廃棄物を出さずに今日も営業を終えた。
A氏は街づくりDTC®をレストランへと活用することによって、多様な好みに対応しながらも、食品ロスを防ぐお店づくりを実現しているようだ。もっとも、A氏はまだまだこのレストランを拡張していきたがっているという。オフィスビルの新店舗も、今後はビル内の菜園と連携を進めていくのだそうだ。オフィスビルの屋上につくられた菜園で収穫された野菜を使い、食材をレストランのネットワークのなかで活用していく――A氏が考える、ひとつのエリアの中で店舗のみならずオフィスや菜園も相互に連携しつながっていくレストランは、もうすぐ現実のものになろうとしている。

